フォルテピアノ奏者 丹野めぐみ BLOG。東京芸術大学音楽学部楽理科卒業後、オランダ初めヨーロッパ各地にて研鑽を積み、同地にて活躍。現在オランダでもっとも権威ある「De Nederlandse Opera」のメンバーとして参加、また「Amsterdam Barok Opera」にて活動の場を広げるとともに、ヨーロッパを中心に、室内楽とドイツリートの分野で精力的な活動を行なっている。

演奏会前のティータイム(3) 粋なベートーヴェン

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 はてさて、今日も上野、東京、京橋、有楽町。そして今やっと落ち着いた時間を取り戻しています。今日は私を古くから良くしてくださっている方々に会えて、なんていうか、この精神が磨り減っている中、10年以上もの変わらぬ友情を傾けてくれると、ホッとするというか、この世でもっとも大切なものを思い出させてくれるので、また気合が入ってきました!

 今日はちょっとベートーヴェンについて。
 私のこのサイトをみてくださっている方々はすでに察してくださっているとおもいますが、私、ベートーヴェンにはどうも特別な感情が入ります。誕生日が近いから?それもそうかもしれないけど、きっと、彼の音楽から察するに、あのクライマックスまで人をひっぱっておいて、ヒュッとかわしてくれるところなんか、なんとも人間的というか、シリアスな一面と、ユーモラスな一面がおもしろいように混じっていて、私自身もそういう二面性をもっていると思うので(自己の判断はあてにならない?)なにか惹き付けられてしまうのであります。

  今回の演奏会では「ヴァルトシュタイン伯爵のテーマによる8つの変奏曲」をとりあげますが、まあ、ひとことで言うと、百面相!いろいろなキャラクターが詰まっているので、タイミングや間のため方など、そのキャラクターを「演じて」しまうと、逆におもしろみがないのかも。アントニオ君と私は、お互いもとからころっころ気性が変わりやすいので、たぶんそういう意味でもこの曲は、私達のデュオならではの味付けになるのではないでしょうか?
  
  このヴァルトシュタイン伯爵、音楽やっている方ならかならず知っているあの曲! ベートーヴェンの中期のピアノ・ソナタの中でも傑作である作品53のソナタを献呈された方であります。が、意外な事実は、この伯爵、かなりのピアノの達人であったのであります。おそらく、この曲は伯爵が最初に「ほら、こんなテーマつくってみたよ!この先はよろしく!」みたいな感じで、ベートーヴェンに託されたのではないかと推測するのです。そしてきっと仲むつまじく連弾していたのではないかしらん?と想像をめぐらせて楽しんでいる今日この頃。。しかし、これは明らかに「家庭用」連弾曲をはるかに超えた難しさなのであります!なぜって?まず、プリモ(高音域)奏者とセコンド奏者(低音域)の「弾きにくさ」、つまり、手が重なるパーセンテージが高いのであります。しかも一瞬でも鍵盤に長くいすぎてしまうと、相手が打鍵する時には、まだハンマーが定位置に戻りきれてない=すでに時遅し。。=音が出ない!=ちょっと気まずい雰囲気。。なんてことにもなりかねないのです。。むんん。。だから、こんな曲を書くわけだから、よほどの友情関係が伯爵とベートーヴェンの間にはあったのでしょうね。ベートーヴェンがウイーンへ向けて出発する際に、「モーツァルトの魂を、ハイドンの手から受け取るのはあなたなのです」という、音楽史上、もっともドキドキするようなことを言える伯爵も、きっとすばらしい人格の持ち主であったと思います。

 この曲はハ長調という明るいチャーミングな調でかかれていますが、途中一瞬暗くなります。ハ短調という調性は「運命交響曲」なんかを想像していただくとわかるように、とても劇的な、しかもロマンティックな調べを含んでいます。そこからカプリッチョ=気まぐれなという意味が転じて「奇想曲」なんていう指示をしてきたりして、急に自由な楽想へ、そしてあとは、一気にクライマックス!なのだけど、最後にベートーヴェンが見せるウイットは、音楽室に貼ってあるあのいかめしい顔つきの彼ではなくって、さぞかしよくモテたのだろうなあということが想像つくような、まるでウインクでもされているかのような締めくくりなのであります!乞うご期待!
  

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