フォルテピアノ奏者 丹野めぐみ BLOG。東京芸術大学音楽学部楽理科卒業後、オランダ初めヨーロッパ各地にて研鑽を積み、同地にて活躍。現在オランダでもっとも権威ある「De Nederlandse Opera」のメンバーとして参加、また「Amsterdam Barok Opera」にて活動の場を広げるとともに、ヨーロッパを中心に、室内楽とドイツリートの分野で精力的な活動を行なっている。

September 2010Archives

 暑い日が続きますが、テンポ・ルバート公演も明日に迫り、最後のラストスパートでがんばっております!

 今日はまず、ベートーヴェンの師匠であったアルブレツベルガーについて!

 ベートーヴェンが1792年にウィーンへ着いたとき、当初師事する予定であったハイドンはすでに多忙を極め、ロンドンの輝かしい社交界で活躍していました。なので、当然ハイドンは本腰をいれてベートーヴェンの作曲をみることは難しく、1794年、アルブレヒツベルガーの門をたたくことになったのです。週三回に及ぶ徹底したレッスンにより、ベートーヴェンは音楽の都ウイーンで頭角をあらわしていったのでした。彼の教えは音楽のみならず「忍耐、勤勉、誠意が成功の鍵」だと、若いベートーヴェンを励ましていたようです。今回は彼の4手のためのプレリュードとフーガを演奏します!

 最後にクレメンティについて! 
 近代ピアノ奏法に最も影響を与えたクレメンティは、すぐれたピアノ奏法を残し、また「ピアノ音楽の父」として100以上のピアノ・ソナタを作曲しました。ベートーヴェンは、ピアノ曲に関してはクレメンティをかなり尊敬していたようです。ピアノ連弾用のソナタは7曲あり、音階、トレモロ、トリルなどのピアニスティックな技巧をうまく組み立てて、時に大胆に、時にカンタービレな作風で、イタリアらしさ満載の楽曲になっています!今回はハ長調の作品を弾きます!

 明日、また楽しい一時を皆様と過ごせるよう、今日もまたがんばります!

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 さてさて、毎日連載していおります、「演奏会前」も今日で4回目!今日はモーツァルトについて!

 1787年、モーツァルトは31歳を迎えていました。ウイーンでの生活は悪化の一途を辿っておりましたが、彼の生涯の中でも最も苦しいこの時期に連弾の名曲「4手のためのピアノ・ソナタ ハ長調 KV521」が生まれました。モーツァルトは現存するだけで5曲のピアノ連弾用ソナタと一曲の変奏曲をかきました。堂々としたなかに表現される透明感、繊細かつ綿密に作り上げられている構成の美しさ、そしてそれらがシンプルに配列されていることも、KV497ヘ長調とならんで、名曲といわれている所以だと思います。
 

 モーツァルトの連弾曲は優雅な美にあふれている作品群ではありますが、今日の演奏会で頻繁に取り入れられることはあまりありません。「連弾の世界」は、その音楽がもつ極めて親密な2人の奏者のやり取りが感じられる距離、空間での演奏が望ましいので、今日の商業べースの演奏会ではなかなか難しいところはあります。そこにあえて挑戦するのは、私達Tempo Rubatoがフォルテピアノという楽器を選んで、当時の考え方、音楽のあり方、その背景などをよりよく理解しようとしたうえで、そこに私達が紡ぎだせる世界を反映させようとすることの面白さのとりこになってしまったから。フォルテピアノを用いると、ピアノ弦の張り方が「平行弦」(モダンの楽器は交差弦)のために、低音の一音一音がクリアに聴こえ、2人の奏者の「音の対話」がはっきりと描き出されます。またフォルテピアノは、音域によって異なった音色を持っているので、この「対話」により色彩をもたらすことができるのです。楽器自体の音量の幅はモダンのピアノに比べて小さいですが、当時の楽器(またはレプリカ)を用いることで、作品の中にもとめられたコンテクストの中の「フォルテ」や「ピアノ」という物理的な音量の変化を超えたレベルで、音楽をより鮮やかに奏することを可能にするのです。 
 どちらの楽器がよりいいかという聞き方ではなく、それぞれの楽器がもっている特性に耳を傾けていただき、新たな音の冒険をしていただければ幸いです!

 写真は、先月ブリュージュでの感動したコンサートの後、打楽器奏者Massimo Laguardiaさんと!いやはや、「サルディーニャ島の教会音楽」のパワーに開眼!4人の歌手の太い声と、この世を隔てる不思議なハーモニーに度肝を抜かれ、癒されました!Cuncordu de oroseiの「miserere」聞き惚れています!

 

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 夜になると随分涼しい風が吹きますが、PCの前だとやはり暑い。。皆様いかがお過ごしでしょうか?

  今日は「ベートーヴェンとヴァルトシュタイン伯爵」の友情について。 

 ベートーヴェンはモーツァルトに憬れて、音楽の都ウィーンを目指したわけですが、1792(22歳ころまで)年までは故郷ドイツ・ボンの宮廷楽団でヴィオラ、チェンバロ奏者としてその手腕を振るっていました。このころ劇場で行われていた「ドン・ジョバンニ」や「後宮からの逃走」に触れていたわけですから、モーツァルトを心底知りたいという欲求はどんどん高まるばかりです。
 この時代、彼のパトロンであったヴァルトシュタイン伯爵は、1805年にベートーヴェンが献呈したピアノ・ソナタ作品53で、その名を知られておりますが、実はこの方、ピアノも相当な腕前だったといわれております。伯爵が主題を提示し、それを即座にベートーヴェンが変奏を加えながら楽しむということが行われていたということは、この「ヴァルトシュタイン伯爵の主題による8つの変奏曲」からも読み取れます。親密な友情から生まれたであろうこの曲は、「家庭で楽しまれる連弾曲」というスケールをはるかに超えた、技術的にも音楽的にも高度な芸術作品です。しかし、最後にベートーヴェンが一瞬みせるほほえみは、彼のあの音楽室にあるいかめしい顔つきとは逆の、ウイットに富んだ温かみのある優しさを表しています。

 1792年10月、「モーツァルトの魂をハイドンの手から受け取るのはあなたなのです。」といって若いベートーヴェンをウィーンへ送り出した伯爵の気持ちを考えると、壮大なヒューマン・ドラマを思わずにはいられません。

 ちなみにこの写真は、先月ブリュージュで行われた楽器展示会にあった、ポール・マクナルティー作のシュタイン・モデルのフォルテピアノです!鳴りがよく、はっきりとした輪郭を描きやすい、すばらしい楽器でした!横浜での演奏会も、製作者は違いますが、「シュタイン・モデル」を使います!

 明日はモーツァルトについて!

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 さて、9月に突入!各方面から毎日いろいろなお便りを頂き、とても感謝しております!ありがとうございます!
 今日は、ちょっとうれしいお知らせです!10月3日オランダの由緒あるコンサートホール「コンセルトへボウ」にてTVレコーディング、インタビューを「テンポ・ルバート」が受けることになりました!どんなふうになるのやら、今からワクワクしております。前回オランダのテレビで放映された演奏は、YOUTUBEにてご覧になれますのでぜひ!http://www.youtube.com/watch?v=eoDVTvCwEgY

  この演奏にもあるヴェナンツィオ・ラウッツィーニ(1746-1810)は、作曲家でありながら、「カストラート」(男性ソプラノ歌手)として、まだ10代であったモーツァルトの心を熱くした、異色の人物。モーツァルトのオペラ「ルチオ・シッラ」のミラノ初演を飾った男性でもあります。イタリア人でありながら、その後イギリスで活躍し、彼の多くの作品はロンドンで出版されました。ハイドンが彼のヴィラを訪れたことも有名です。ちなみにこの曲も1783年にロンドンで出版され、「プリモ」の軽やかなメロディー、いたってシンプルなハーモニーのなかにキラめく音色、そしてアントニオの絶妙な即興もまた聞きどころのひとつです。

 この写真は、この前のオランダで最終日に、とある大邸宅からバスに乗るときに逃してしまい、途方もなく歩いている途中にとったもの。でもこの光を見て、心がスッとなったというか、人生もこれから!って、前向きな気持ちになったりして、太陽の恩恵を感じた瞬間でした。自然に触れる、そういう瞬間に触れるってことはとっても大切なひとときですね!